内観 研修の専門家の意見
ポジションという言葉を金融関係者はよく使うが、これは金利なり為替なりの相場が変化した場合、自分に損失あるいは利益が発生する状態に自らを置いている状況を表現している。
デリバティブ、とくにその中でも円金利スワップを使わないで金融機関が負債・資産の金利管理を行うことはできない。
厳しい競争下におかれている金融機関の場合、円金利スワップの導入なくしてALMを行うことはもはや不可能といわざるをえない。
このように、バブルの崩壊と金融自由化の進行は、規制金利での運用比率、規制金利での調達比率それぞれが激減するという状況に直面し、かつまた、右肩上がりの株式・土地という打ち出の小槌を失った金融機関に対して、デリバティブを駆使した厳格なALMの重要性を喚起した。
従来型の日本の経済システムにはまさに国際的な価格水準から隔離された鎖国経済のごとく、国内の企業同志が、国際価格水準から見れば割高のものをお互いに購入しあうという図式が出来上がっていた。
たとえば、材料は割高、しかし納入される製品も国際価格水準から見れば高7さらに、デリバティブは企業・機関投資家・個人といった金利のユーザーに対しては、資金の需給関係で決まるいわゆる市場金利をベースとする運用・調達の機会を与えた。
たとえば、円金利スワップは、株式市場での低コスト調達の道を断たれた企業に、伝統的な規制金利での有利子負債を廃棄させ、市場金利ベースでの資金調達を容易にした。
株式市場が先行き不透明になっていく中で、大手企業・中堅優良企業は円金利スワップを駆使して有利子負債をオセロのように黒から白へ、規制金利体系から市場金利体系へとひっくり返していった。
バブル崩壊と自由化進行が決定的となった1995年にデリバティブが時代の寵児となったのにはこのような必然性があるのだ。
そしてこのデリバティブは、遅まきながら日本の金融界に「市場原理」を持ち込む黒船となった。
1993年ごろになると物流の世界では、この鎖国経済のもとに、内外価格差をいやというほど見せつける黒船が現れはじめた。
コーラ、フィルムなどに象徴される超安値の海外生産品の登場である。
眠りを覚ます蒸気船の持ち込んだ価格破壊の進行は、究極的には鎖国経済に穴をあけた。
高いレベルに値づけされているといった関係が相互に絡み合って、いわばすべての価格が、高下駄を履いた価格体系で均衡しているというシステムが出来上がっていた。
要すれば、国内価格基準は、国際価格基準に鎖国経済による割増金を上乗せした二重構造となっていたわけである。
金融システムもまったくこの延長線上にあった。
その一つの典型が株式の持ち合い構造であろうし、さらには企業と金融機関との関係は単なる金融取引という狭い範囲に留まらず、企業が製造する商品への金融機関の営業協力などというところまで絡んでおり、これが、資金と商品それぞれの価格を結果的に市場価格より高めにするという現象もしばしばみられた。
この日本型システムの壁は厚く、物流の世界のみならず金融の世界での鎖国体制は容易に崩れないように見えた。
従って、いくら黒船デリバティブ号がこのような日本金融村に「市場原理」という爆弾を積んで来港したといっても、その導火線の長さは思いのほか長いというのが実感である。
これは鎖国プレミアムを次々と取り払っていくことを意味する。
ところが、物流と比べると金融の世界での「市場原理」は、バブルの余韻とこの世界に携わる人々の従来型・鎖国経済復活への希望的な期待が強かったためか影が薄かったことは否めない。
まさに、マーケット・メカニズムが働きはじめ、国際価格基準を目指して走りを開始した物流の世界、同じ金融の世界であっても「市場原理」と「自己責任」こそが物事の判断基準である海外の金融市場から、日本の金融の世界のみが取り残されていったのである。
このような孤島と化した日本金融村にもついに第2の黒船が現れた。
「ジャパン・プレミアム号」である。
デリバティブに次ぐ二つ目のカタカナ言葉の登場である。
「ジャパン・プレミアム」という言葉が衆目の認めるところとなったのは1974年以来、2度目であるが、今回のジャパン・プレミアムは20年余り前のそれとはかなり異質のものである。
ジャパン・プレミアムというのは、邦銀が外貨資金市場において調達を行う際に、相手方より、通常の銀行間資金取引金利よりも割高な水準を要求されることをいう。
1974年のジャパン・プレミアムは、オイル・ショック後の富の偏在発生と、資金のリサイクリングヘの不安という環境のもとで起こったユーロ資金市場の信用創造機能の収縮によるものである。
直接的には1974年6月、当時の西ドイツの商業銀行であるヘルシュタット銀行が巨額の為替差損を被り閉鎖となった。
西独当局が欧州時間で市場閉鎖をアナウンスしたため、同行にたいしてマルク売り米ドル買いの外国為替契約を締結していた銀行は、代わり金の米ドルをニューヨーク市場にて受け取れないといった事件が起こった。
マルクは欧州時間帯に支払ったが、受取るべき米ドルはニューヨークが朝を迎えるまで待たねばならず、この間にヘルシュタット銀行が倒産してしまったのである。
当時、ユーロ市場は規制のない自由な市場として多くの参加者を得て急膨張していた。
短期の為替資金取引はもちろんのこと、シンジケートローンといわれる長期外貨貸付市場は巨大化していた。
中央銀行が存在せず支払準備率がないユーロ市場は、相手の信用リスクが取れれば無限大にでも信用創造できる市場であった。
ヘルシュタット銀行の崩壊が生み出した信用不安の発生は、信用創造機能を急激に収縮させ、信用リスクが高い銀行を資金市場から排除、その結果、長期融資を短期の預金受入れによってつじつま合わせの経営を行っていたこれら大部分の銀行は預金の払戻しに応じようにも、手元資金はなく、パニック状態になった。
信用収縮の中で、ユーロ市場の参加者である銀行の資金コストはその信用リスクによってランク付けされた。
本源的な米ドル資金を持つ大手米銀・地元ロンドンの大手英銀はいわば松竹梅でいえば松のランキングを獲得し、信用収縮の中であってもインターバンク金利よりも低い水準で資金確保することが可能であった。
竹のランキングはフランス・ドイツ・オランダなどの欧州の一流銀行で、通常のインターバンク金利での資金調達が可能であった。
これらの範曙に入らないランキングの銀行は通常のインターバンク金利にマージンの上乗せを余儀なくされた。
当時邦銀は欧米市場でのプレゼンスが今ほど高くなく、石油価格高騰の影響を大きく受ける日本の銀行ということで、大部分の邦銀はジャパン・プレミアムを要求された。
ところが、今回の事態では信用収縮現象は未だ起こっているとは思われない。
むしろ、信用収縮現象は、邦銀が外貨建て融資ならびに外貨建債券という外貨資産を大量処分してバランスシートの外貨部分を身軽にする際に起こってくるかもしれない。
金利についても、通常の格付け・知名度によって適用される金利の格差に加えて、すべての邦銀に対してのみ懲罰的な金利がさらに課せられている。
なぜ、邦銀に対してのみ懲罰的な金利が課されるのか。
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